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横浜地方裁判所 昭和52年(行ウ)9号 判決 1980年7月16日

原告 吉原健一

被告 逗子市

主文

一  本件訴を却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  (主位的請求)

被告が昭和四六年八月一八日付でなしたと主張するところの別紙目録記載(一)の土地(以下「(一)の土地」という。)と同目録記載(二)の土地(以下「(二)の土地」という。)との間の道路査定処分は、存在しないことを確認する。

2  (予備的請求)

被告が昭和四六年八月一八日付でなした(一)の土地と(二)の土地との間の道路査定処分は、無効であることを確認する。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の申立

主文同旨

2  本案に対する答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

別紙「当事者の主張」記載のとおり。

第三証拠<省略>

理由

一1  請求原因一項については、当事者間に争いはない。

2  証人村田徳治の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一ないし四(乙第一号証の一の官署作成部分についてはその成立に争いがない。)及び第三号証の一、成立に争いがない乙第三号証の二、三及び甲第六号証の二、証人村田徳治の証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、つぎの事実が認められる。

被告逗子市においては、住民から道路査定の申請がなされると、市の事務として道路の境界協議をなしているところ、「道路の境界協議」は、逗子市事務決裁規程第九条に基づき、主管の長の専決事項とされ、昭和四六年当時は市の建設部管理課(用地係)がこれを所管し、その後昭和四八年に建設部用地課が新設されたのにともない、用地課長の所管とされているが、同市における道路境界の協議及びこれに基づく査定は、以下の手続で行われている。

道路境界の査定を求めるにあたつては、該道路隣接私有地の所有者である住民において、公図写に査定位置を朱線で明示し、現地の案内図を添付した土地境界査定申請書を市長に提出するものとし、これを受理した市においては建設部管理課用地係(昭和四八年以後は用地課)が、右添付書類を調査し、市の内部資料をも検討したうえで、予め申請人及び隣接土地所有者に現場協議の日時の連絡をなし、右指定の日時に担当係員が現地調査を行ないその場で申請人及び隣接土地所有者らと協議し、境界について市の担当係員を含む全員に異議のない場合は、担当係員において、協議成立の線を以て道路敷地の境界と査定し、道路査定図を作成し、査定経過とともにこれを主管の長に報告し、さらに申請人をして市長に対し、右土地境界査定(具体的には道路査定図)につき異議がなく、これを承諾する旨の土地境界査定承認書を提出させることによつて道路境界の査定手続をなすこととしている。

しかし、法令に基づいて右の道路査定手続を行つているわけではなく、国有財産法三一条の三の規定等を参考に、被告市においても、全国的に行なわれている慣例にならつてこれを実施しているものである。

本件道路査定は、昭和四六年八月一八日、右の手続により、被告市管理課長が主管の長となり、査定責任者を同課用地係長村田徳治とし、部下の用地係員松山某の現地立会のもとに行なわれたものである。

ところで、本件道路は、道路法施行法三条の規定により道路法八条の認定があつたものとみなされる市道であるが、その道路敷地は国の所有であつて被告は道路法一六条一項の規定に基づき管理権を有するに過ぎない。

以上の事実が認定され、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  右のような事実が認められるところ、被告逗子市における道路査定は、被告において市道の管理行為の一環として、市道と私有地との境界を明らかにし、市道の管理保全を図ることを目的とし、間接的には市道隣接者との境界をめぐる紛争を事前に回避するため、古くからの慣例ないし他の市町村の例に従つて行なわれているものであつて、前掲逗子市事務決裁規程において「道路の境界協議」が市の事務の一つとして掲げられているものの、被告において道路査定を実施し得る根拠となる法令は何ら存しないし、道路査定の法律効果を定めた法規も存しない(ちなみに、国有財産法三一条の四の規定による境界の決定も国の各省各庁の長に境界査定権を認めたものではないと解するのが相当である。)。

前示認定のとおり本件道路査定も、右のような被告市の道路査定としてなされたものであるこというまでもない。

二  原告は、被告のなした前示のような道路査定が、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当することを前提として、その不存在または無効の確認を求めるものであるところ、抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは、行政庁の行なう行為のうち、行政庁が法の定めた優越的な地位に基づき権力的な意思活動としてするような行為で、それにより個人の法律上の地位ないし権利関係に対し、直接に何らかの影響を与えるような行為をいうものと解すべきであるが、被告のなした本件道路査定は、右のいずれにも該当しないというべきである。

すなわち、道路法によれば、道路の区域の決定、変更は、当該道路の管理者によつて建設省令で定めるところにより、これを公示し、かつ、これを表示した図面を一定の場所において一般の縦覧に供することによつてなすものとされているから(道路法一八条一項)、この規定によらずに実質的に道路の区域の決定、変更の効果を生じさせるような行為はたとえ道路の管理者といえどもなし得ないところである。しかも、道路の境界を確定する道路査定については、前説示のように、具体的にその根拠を規定し、その効果について定めている法律は何ら存在しないのであるから、道路査定処分により、法的に道路の区域が決定、変更され、ひいては隣接地の所有権の範囲も確定されたことになるとは到底解せられないのである。

そうすると、本件道路査定は、法律に基づいてなされる行政庁の権力的な意思活動としての行為には該当しないし、また、それにより個人の法律上の地位ないし権利関係に対し、直接に影響を与える行為でないことも明らかである。

以上のとおり、本件道路査定は、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当しないものというべきであるから、これに該当することを前提とする本件道路査定処分の不存在または無効確認を求める原告の本件訴は、爾余の判断をするまでもなく、不適法であるといわねばならない。

三  よつて、原告の本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小川正澄 三宅純一 清水節)

当事者の主張

原告

請求原因

1 訴外山本鋭二は、昭和四六年六月九日被告に対し、同訴外人が所有するとする別紙目録記載(二)の土地(以下「(二)の土地」という。」と隣接する公道敷地との境界不明のため道路査定(土地境界査定)申請(以下「本件申請」という。)をした。

2 被告は、右申請に対し、同年八月一八日隣接地所有者である利害関係人訴外伊藤文治、同大野義治と協議のうえ、別紙目録記載(一)の土地(以下「(一)の土地」という。)と(二)の土地との間の道路査定(以下「本件道路査定」という。)を了したと主張している。

二 (本件道路査定の不存在)

1 右本件道路査定の対象道路は、(一)の土地と(二)の土地との間の被告管理に係る市道部分(別紙図面の斜線部分。以下「本件市道」という。)であるが、昭和四六年八月一八日当時、本件市道の査定(実質的には土地境界査定)に関し、利害関係を有する隣接土地は、別紙図面のとおり、(一)の土地のほか、別紙目録記載(四)、(五)、(六)の各土地(以下、それぞれ「(四)の土地」、「(五)の土地」、「(六)の土地」という。)であり、その当時における右各土地の所有者は、(一)の土地が原告の先代吉原鼎助、(四)の土地が訴外山本晴彦、(五)の土地が訴外伊藤文治、(六)の土地が訴外横山はなであつた。

2 しかるに、右正当な利害関係人は、本件道路査定における協議に立会つていないのであるから、利害関係人との協議は成立していない。

3 また、昭和四六年八月一八日に行なわれた協議では、さらに調査したうえ査定を行なうとの予定であつたもので、査定は完了していない。

4 さらに、被告が行なつたという本件道路査定には、逗子市長の署名押印がなく、いまだ道路査定処分が存在していないというべきである。

5 右のとおり、本件道路査定は、いまだ完了していないもので、存在しない。

三 (本件道路査定の無効)

仮に、被告主張の本件道路査定が存在するとしても、本件道路査定は、次のとおり重大かつ明白な瑕疵があり、無効である。

1 本件土地境界査定申請をした山本鋭二は、本件市道に隣接する土地の所有者ではなく、何ら利害関係を有しない者の申請に対してなされた本件道路査定は重大かつ明白な瑕疵がある。

2 前記二2ないし4のとおり、本件道路査定は、正当な利害関係人による協議が成立しておらず、また、査定も完了していないうえ、逗子市長の署名押印を欠くものであつて、いずれの点においても重大かつ明白な瑕疵があり無効である。

3 本件市道は、本件道路査定前、原告所有の(一)の土地の西側傾斜地の下(西)側平坦地にあつたものであるが、被告の本件道路査定によれば、本件市道の位置は原告所有の傾斜地内にあり、その傾斜度も著しく、場所によつては約六〇ないし七〇度あり、とうてい市道として道路の用、通行の用に供することのできない地形である。

かような土地を道路と査定した本件道路査定は、道路としての機能を果たしえない土地についてなされたものであり、その内容において重大かつ明白な瑕疵があり、無効である。

4 本件道路査定については、何ら通知公告がされていないので、無効である。

四 (原告適格等)

1 (一)の土地は、もと大野角之助が所有していたもので、これを第二次大戦以前からの原告の先代吉原鼎助が占有していた。

2 右吉原鼎助は、昭和二一年四月二六日、右大野から(一)の土地を買い受け、昭和四六年一二月一四日その旨の所有権移転登記を了した。

3 右吉原鼎助は、昭和四九年一月三日死亡し、原告が(一)の土地を相続により取得した。

4 原告は、表見的に存在するないしは無効な本件道路査定により、自己の所有土地上に道路を設けられて損害を受けるものであり、かつ本件道路査定の不存在ないし無効を前提とする現在の法律関係に関する訴によつては目的を達することができないものである。

五 よつて、請求の趣旨記載の判決を求める。

本案前の申立の理由に対する答弁

一 争う。

二 争う。

被告

請求原因に対する認否

1 認める。

2 認める。

1 (一)の土地の当時における所有者が吉原鼎助であることは不知。その余の事実は認める。

なお、(四)の土地は、もと大野イ子所有の(二)の土地の一部で、訴外山本晴彦が分筆のうえこれを買い受けたものである。

2 協議に吉原鼎助、山本晴彦、伊藤文治及び横山はながいずれも立会つていなかつたことは認め、その余の事実は否認する。

被告は、いずれも土地台帳上の隣接地所有者の立会を求め、その立会のもとに境界協議が成立したものである。

なお、(四)の土地の所有者として立会つた山本鋭二は、所有者山本晴彦の父で、晴彦から本件申請をする権限を与えられていたものである。

また、(一)の土地は、昭和四六年八月当時登記簿上大野角之助名義であつて、右角之助がすでに死亡していたため、被告は共同相続人(大野義治、稲原敏雄、荒井富美、増田信子、増田義成、戸川貞夫、岩田正子、増田敦俊、三縄三郎、三縄田鶴子、三縄綾子、三縄ヤス、三橋スマ、吉原慶子、原告、園田康子)の代表である大野義治に協議を求め、同人が右協議に立会つたものである。

さらに、伊藤文治については、(五)の土地の管理人である常田四郎が協議に立会つたものである。

3 否認する。

4 逗子市長の署名押印がないことは認めるが、道路査定の専決決裁権は、市長の部下職員にあり、市長の署名押印を要しないものである。

5 争う。

1 山本鋭二が本件市道に隣接する土地の所有者でないことは認め、その余の事実は否認する。

前記のとおり、鋭二は、(四)の土地の所有者である晴彦から、本件道路査定についての権限を与えられていたものである。

2 争う。

3 原告所有の(一)の土地の西側が傾斜地であること、本件市道の位置が傾斜地であることは認め、その余の主張は争う。

4 本件道路査定について、通知公告がされていないことは認める。

四 争う。

1 (一)の土地がもと大野角之助所有であつたことは認め、その余の事実は不知。

2 吉原鼎助が(一)の土地について、原告主張の登記を了したことは認め、その余の事実は不知。

3 吉原鼎助が昭和四九年一月三日死亡したことは認め、その余の事実は不知。

4 争う。

五 争う。

本案前の申立の理由

一 原告は、被告が本件道路査定をなした昭和四六年八月一八日当時、何ら利害関係を有していなかつたので、本件道路査定について法律上の利害関係を有せず、原告適格を欠く。

二 被告は、本件道路につき管理権を有するのみで(所有者は国である。)すでになされた道路査定処分についての処分権限はなく、右処分の不存在ないし無効確認訴訟の被告適格を有しない。

よつて、本件訴は、却下されるべきである。

目録、図面<省略>

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